Message代表メッセージ

2014.03.30

美の浜バスターミナル竣工! – 交通政策基本法早期成立のきっかけとなった井笠の奇跡 –

井笠バスカンパニー 社長
小嶋光信
(地域公共交通総研 理事長)

この3月30日笠岡市交通交流センター(美の浜バスセンター)が、まさに雨降って地固まるという天候の中で開催された。

一昨年10月12日突如発表され、井笠鉄道が僅か19日で破綻するという事件が起こったことはご高承の通りだ。岡山県の西部、福山市の東部という広域を預かる老舗のバス業者で、地域の通勤通学と生活路線を担っていただけに、ことは深刻であった。

その年の8か月前の2月に発行した拙著「日本一のローカル線をつくるーたま駅長に学ぶ地域公共交通の再生」で、今後の地域公共交通の破綻は枯れ木が倒れるような形態になるだろうと予測していたが、誰も信じてくれなかった。規制緩和後の30数社の破綻は、6か月前に廃止届出で、誰かがホワイトナイトとして現れ、社会問題化しなかったからだ。

しかし、わずか19日という悲劇がむしろこれまでの常識を覆し、私が主張していた公設民営・民託という再生手法を理解していただき、地域の公共交通の現状の理解が進み、ぬるま湯から飛び出る3つの奇跡を生み出したといえる。

3つの奇跡とは、

1.常識はずれの破綻が再建案の公設民託を早急に理解させる奇跡を生んだ。

破綻発表と同時に岡山県や広島県の関係する市、町が対策協議会をつくり、一部並行する路線を運行する中国バスに路線再建の白羽の矢があたり、両備グループ代表としての私に再建依頼があった。

井笠鉄道のバス路線は全て赤字、またその路線の収支率は50%と民設民営での再建は不可能なうえ、私が主張していた公設民営でも民営出来ず、公設民託という新しい方策しか再建方法はなかった。

勿論、再建間もない中国バスはじめ社内も労使関係と業績が極めて悪い井笠鉄道の救済に大反対だった。しかし、この緊急事態を救済できねば日本の地域公共交通は救えないという信念で救済対策を考えた。

私が示した公設民託は、日本の現行の補助金政策では対応できない方法であり、果たしてこの剛速球を短期間に理解していただけるかと思いつつも、対策協議会の会長の三島市長に対策案を示した。私が10数年研究し、数々の再建で実証してきてたどり着いた秘策を、三島市長はじめ行政の皆さんが数日で理解していただき、この理論に基づいて再建案が創られ、緊急代替え輸送、そして井笠バスカンパニーの設立と進んで行けたことが新たな奇跡を生んだ。

井笠の悲劇で、初めて地域公共交通の実態にメスがはいり、私が地域公共交通活性化及び再生に関する法律、交通基本法と法的措置を図っていたことが、政権交代のたびに頓挫していたが、井笠鉄道の地盤である自民党の加藤勝信さんや民主党の三日月さんや心ある政治家の皆さんの努力で昨年12月交通政策基本法として異例のスピードの法案成立という奇跡をもたらした。

2.前代未聞の業務妨害を両備労使の結束が奇跡を生んだ。

何を勘違いしたのか、賃金や退職金不払いで倒産した腹いせか、緊急代替え輸送に集めていた約60名の井笠鉄道の乗務員が、旧労働組合役員の一部の妨害で30名が引き抜かれるという事件が、再生開始の11月1日までわずか5日しかない時期に起こった。地域の生活交通を守るのが本意であるのに、この悪質な妨害には、今まで多くの再生、再建をしていたが、正直私も「もう駄目か」と落胆した。しかし、出来るまでやるのが両備の行動規範、全国の大型2種乗務員に緊急の応援を即座に要請した。瞬時に両備労使が動き、わずか数日で、こともなげに11月1日緊急代替え運行を予定通り実施するという奇跡を生んだ。

労働運動に名を借りて公共交通を滅ぼそうとする者、両備労使のように身体を張って守る者、この守ろうとする善意が奇跡を呼んだといえる。
もし乗務員が抜かれて再生できねば、公設民営・民託は勿論、交通政策基本法も生まれることはなかっただろう。

3.あまりに酷い井笠鉄道の旧笠岡営業所が、新しい今日の美の浜バスターミナルという奇跡を生んだ。

破綻当時の営業所は干拓地の茂平にあった。当時ミャンマーのヤンゴン市のバス路線の近代化に関わっていて、荒れに荒れたミャンマーのバス営業所に負けぬように荒れたうえ、市内の中心部に遠い営業所では再建は無理と判断して、笠岡市に新しい立地を学校の統廃合地などを中心に探していただくことにした。そうしたら美の浜への立地を示していただいた。

こんなに早く好立地が決まり、そして地域の合意、議会の承認など、異例のスピードで完成したこの施設は、今後の地域公共交通再生のシンボルともいえる。
そして、これらの施設や路線バスの公設方式が、交通政策基本法における地域公共交通の行政の役割や計画の再生モデルになるだろう。井笠の再建が地域公共交通のメッカとして、その意義は大きい。

災い転じて福となすというが、わずか19日という再建劇が、日本中を救う舞台になった。地域の皆さん、行政の皆さん、そして政治家の皆さん方と両備労使のお蔭と感謝している。

 

実際は井笠のバス路線だけの再建で事は終わるのでなく、地域が元気になるツールとしての公共交通であるということを理解しなくてはならない。
同時開催で、バスターミナルの完成を祝って笠岡市で初めてバス祭りが開催され、、雨の中多くの市民とバスマニアが訪れてくれた。地域が元気になる糸口が子供たちの歓声のまにまに感じられた。

井笠地域のように少子高齢化のみならず、地域の産業の衰退で疲弊している全国の同様な地域を、どのように元気にできるか、地域や行政の皆さんと一体になって、頑張りたいと思っている。

20140330

>井笠バスカンパニー
>中国バス
>地域公共交通総研

一覧に戻る