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2014.10.14

「第一回スポーツ振興奨励大賞」は高橋大輔さんが受賞

公益財団法人 両備檉園記念財団 理事長
小嶋光信

去る10月14日、第36回(公財)両備檉(てい)園記念財団の贈呈式を行いました。今までの助成金に加え、今年からは「生物学研究」と「スポーツ振興」部門への助成の名称を変更して「奨励賞」とし、その「第一回スポーツ振興奨励大賞」を、日本フィギュアスケート界を切り開き、牽引してきた高橋大輔さんに贈呈しました。

大輔さんへの当財団からの助成は、彼が中学生の頃から続けてきたことです。たまたま私が第60回の岡山国体に向けて、岡山県が毎回どうしても入賞できなかった冬季国体のスケート部門で、入賞できる選手を養成するという任を受けて岡山県スケート連盟の会長になった時に知り合いました。当時からステップの上手な、何か雰囲気を持った選手で、コーチの佐々木さんからも、必ず国体で入賞してくれる選手だと聞いていました。

その後、あれよあれよという間に、世界ジュニア選手権の日本代表となりました。その壮行会の時だったか、大輔さんが挨拶の後、スケート靴を隠すようにして帰ろうとしたので、「ちょっと靴を見せて!」と言って彼のスケート靴を見ました。すると、どこに皮があるのかというぐらいに継ぎ接ぎをして大事に靴を使っていたのです。その様子を目の当たりにして、連盟の皆でカンパして新しい靴を試合用にプレゼントしました。すると、全く想像もしていなかった世界ジュニア選手権での日本人初の優勝を果たし、関係者が皆、本当にビックリし、心からお祝いしました。それ以来、当財団から心ばかりの助成金を贈呈して、靴や曲づくりの足しにしてもらっていたのです。

彼の天性ともいえる華麗なステップと、醸し出す雰囲気、演技力は世界一でしょう。
しかし、誤算が一つありました。オリンピックの日本代表選手になると演技の時間が国体より長く、通常は国体に出場できないのです。国体をどうしようかと思っていたところ、彼は地元のためと言って、世界的な選手でありながら、敢えて第60回岡山国体に出てくれ、大上選手とともに岡山県のフィギュアスケート選手で初めての国体優勝を成し遂げてくれました。本当に律儀な男なのです。

バンクーバーオリンピックの時には、ここ一番で力が出るようにと、「たま駅長のたま守り」を「猫は何処からでも上手く着地できるから、試合の前に見てね!」と言って渡したところ、そのお蔭かどうか、日本男子フィギュアスケート界で初めての銅メダルを獲ってくれました。たま駅長のことは、大輔さんのお母さんがメダル獲得の裏に秘められたエピソードとして話してくれ、東京スポーツ新聞に大きな記事が掲載されました。

今回は助成から「大賞」へ名称変更した初回となるのと、何となく予感がしたので、できれば贈呈式に出て欲しいと伝えたら数週間前に出席可能との回答がありました。また、地元岡山でマスコミへ引退を発表する囲み取材を受けたいので協力して欲しい、と表彰式の数日前に依頼があり極秘に準備をしていました。予想以上に取材陣が集まられたので、急遽、直前に正式な記者会見へ切換えて実施しました。
会見準備は何もしていないため、両備グループの社名ロゴ入りボードの前で、とのお申し出をいただいていたので、お役に立つならとご協力させていただきました。

大輔さんには、彼を育てた母親ともいえる女性が三人います。一人目はもちろん、生みの親のお母さん、二人目は大輔さんを発掘した佐々木コーチ、そして三人目は実の我が子のように優しく、また厳しく、世界的な選手に育て上げた長光コーチで、本人の努力とこの三人がいなければ大輔選手はここまでの選手にならなかったと思います。贈呈式当日には、ご両親と佐々木さんが同行で、当初、長光さんは出席予定ではありませんでしたが、無理を言って三人のお母さんに勢揃いしてもらいました。これがささやかな花道であり、お母さん方への心ばかりの御礼です。

財団の贈呈式の最後で、(公財)両備檉園記念財団の理事長としてではなく、岡山県スケート連盟の会長として、さりげなく「今後はどうするの?」と尋ねて、大輔さんが引退を表明しました。しかし、本当にサバサバとした笑顔で、20年間の競技の重圧から解放された彼の清々しい気持ちが伝わってきました。

大輔さんは、それまでの男子フィギュアスケートに関する世界の常識である「日本人はオリンピックメダルや世界選手権のタイトルを絶対に獲れない」という大きな壁を取り払い、フィギュア王国・日本を築き上げ、フィギュアスケートのファンを増やす快挙を成し遂げたのです。この彼の功績は、極めて大きいと思います。
何れの時か、アイスショーのみならず、指導者として、また岡山に戻ってきてくれることを秘かに願っていますし、今後もずっと彼を陰になり日向になり応援していきたいと思っています。

今回受賞された他部門の皆さんも式場に入りきらない程の凄いマスコミの数にびっくりされたと思います。
(公財)両備檉園記念財団は、昭和54年以来、生物学に関する試験研究および郷土の文化・芸術・教育並びにスポーツの発展に寄与することを目的として、6部門について広く一般より公募を行い、助成させていただいていますが、今年は「生物学分野を基礎にした新産業創出に係る研究助成」を除く5部門に平成26年度の奨励賞・助成金を贈呈しました。5部門で総額1,230万円(昨年より2割強増額)の助成でした。

受賞者の皆さんとともに、大輔さんのけじめとしての引退という「第一幕」の卒業を一緒に祝わせていただけて、本当に有難く思うとともに、これから始まる輝かしい第二幕を心から楽しみにしています。

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両備檉園記念財団

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