Message代表メッセージ

2008.11.04

温泉大国日本を世界の温泉治療のメッカに

両備グループ 代表
岡山大学 エグゼクティブ・アドバイザー
小嶋 光信

日本は、世界の3分の1、約1,000カ所の温泉地を有する温泉大国でありながら、この世界的資産を活かしきれずに、多くの温泉地は寂れ、経営の危機にある温泉旅館、ホテルが多い。これは特に高度成長時代に企業の社員旅行や一般の大型団体向けに建てられた温泉旅館やホテルが、成熟化した経済の中、ライフスタイルも変わり、大型の団体を好まぬような”個”の風潮の中で、いわば大鑑巨砲主義的経営として消費者に見放されてきた結果による。

更に、円高による海外旅行の低廉化による海外シフトが顕著になり、その活路として、極めて低料金による募集型ツアーの観光客に期待をかけ、立ち寄り湯や日帰りや一泊プランなどを中心に集客に努めたが、結局経営的に思わしい結果が出せなかった。また大量の客をさばくため、大型浴場にして、塩素で消毒するなど、温泉の効能に疑問符もついてしまった。

岡山県も美作三湯など温泉地が多いが、どこも客足の減少と、低単価に苦しんでいるのが実情だ。両備グループでも長年観光バスを主体とした観光事業を運営してきて、我々自身も苦戦している現状であるが、さりとて温泉地の窮状は看過できない。何とか窮状の打開が出来ないかと常々頭を痛めていた。

一方、温泉医療の研究・診療においては、戦前から全国の国立大学で診療所が作られるなど、一時は流行したが、これという思わしい研究成果もなく、ほとんどの国立大学は閉鎖をした。そのため岡山大学と東京大学の診療所だけが残ったが、結局最近東京大学も閉鎖してしまったため、ラドンを中心にした温泉医療の研究・治療は、鳥取県三朝温泉を研究する岡山大学病院三朝医療センターただ一つになってしまった。

数年前に岡山大学でも、この三朝医療センターを閉鎖するか否か、当時の委員長、清水信義先生(前副学長)を中心に検討され、私も経営担当理事として委員会に参画していた。会議の結果、日本全国でただ一つの研究・診療の拠点になったこと、また実際に西洋医療を補完し、あるいは西洋医学で治癒することが困難な病気で効能が見られるなど、世界へ向けてラドン温泉治療を研究・実施する機関として存続・強化していくことが大事であるとの方針を固めた。

この全国的に危機的問題になった温泉地の活性化の一助として、岡大のラドン温泉治療の研究が活きていくことになり、この地域連携は三朝温泉に留まらず、日本全国の温泉地が注目するようになる期待がある。またこれは、このたび観光庁も出来たが、温泉大国日本としても、国策としても進めていかなくてはならないテーマである。そのため、清水信義先生が中心になり「NPO法人 ラドン温泉医療三朝会議」が設立され、この11月4日、5日の両日、「岡山大学病院三朝医療センター」と「NPO法人 健康と温泉フォーラム」と3者共催で『健康と温泉フォーラム~三朝・温泉を活用した医療と地域の連携~』を三朝町で開催し、私もパネラーの一員として参加した。鳥取県の平井知事と三朝町の吉田町長も出席され、全国から約140名が参加し、熱気溢れた、期待に満ちたフォーラムとなった。

欧米では、ラドン温泉治療は古くから貴族の治療として珍重され、健康保険の適用のある国も稀ではない。
三朝では目立った研究成果が無いというが、三朝地区の住民のガン死亡率は、全国平均で男女とも約半分だ。肺ガンにおいては男性が半分、女性でも2割位死亡率が少ないという報告もある。三朝とラドン濃度だけが異なる別府温泉では、ガン死亡率は全国平均であることから、三朝の温泉の温熱効能だけでなくラドンの効能の可能性が高いと思われる。
また、関節痛などの疼痛を和らげる効果は温熱治療でもあるが、ラドン温熱治療では圧倒的に和らげる期間が長くなる。さらに、アトピーや鬱病など、難治療にかなりの効果が見られる。二重盲検法で臨床試験をすれば、かなりの成果があがるのではないかと思われる。ラドン温泉の効用は、温熱治療によるもの、ラドンの作用によるものの相乗効果と思われ、温熱治療の研究は全ての温泉に利用できる研究になる。

今後は、

  1. ラドン温泉治療・温熱治療の研究を進め、科学的な根拠をしっかりと研究する。
  2. オーストリアのバドガシュタインとの連携、インスブルグ大学など世界の大学との研究との連携を計る
  3. 三朝医療センターは、全国でも稀なラドン温泉熱気浴施設と泥治療などの実績があり、アジアで唯一の医療機関のラドン温泉治療として相応しいように設備・研究を整備・拡充を検討する。また、医療に、リハビリに、リラクゼーションやエステ、アンチエージングなどの多方面のニーズに応えられる経営体制づくりが必要になる。
  4. ラドン等の温泉治療の健康保険の適用の可能性を開拓する。温泉治療特区の申請を視野にいれ、せめて入湯税くらいの免除を計りたい。西洋諸国では、前述のようにラドン温泉治療は古くから貴族の治療とされ、薬効が認められており、健康保険適用もされている。現に今、ギリシャ人が三朝にラドン治療に来ている。我が国では古くから湯治の習慣があるにもかかわらず、適用にいたっていない。高齢化社会では、もっとも必要な治療あるいはリハビリとしての認知を目指す。
  5. これらの温泉治療と、温泉旅館とのコラボレーションを計り、例えば長期リハビリに医療センターのベッドの補完として、差額ベッド代を払えば既存の旅館に泊まれるなど、三朝町も含めた地域連携と地域活性化を進める。

三朝町の活性化にはラドン温泉のブランド化だけでなくストーリーが必要になる。
国民的人気コメディアンだった植木等さんは、晩年健康を害すると岡山大学三朝医療センターに10年前後入退院されたそうで、「三朝のお陰で長生きできた」と言われた実績がある。使われない美術館が町にあるので、これを「植木等スーダラ記念館」にすれば、大いに町おこしと、ラドン治療の理解に繋がる。あれだけ超多忙な植木さんが、敢えて東京でなく、三朝を選んだというストーリーがブランドになる。

これらの運動を通じて、我々の活動が、日本の温泉地を救い、世界の温泉治療のメッカになる一端を開ければ幸いだ。

*この原稿は平成20年11月4日、三朝町の「ブランナールみささ」で行なわれた『健康と温泉フォーラム~三朝・温泉を活用した医療と地域の連携~』での発言要旨です。 健康と温泉フォーラム~三朝・温泉を活用した医療と地域の連携~

両備グループ

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