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2016.08.29

地域公共交通総合研究所 第4回シンポジウム開催!- 制度と政策の次は技術の先端と全国の好事例に学ぶ –

(一財)地域公共交通総合研究所 理事長
小嶋光信

地域公共交通総合研究所が主催する毎夏恒例のシンポジウムも今年で4回目となり、今回、8月10日に開催したところ、名簿を見てびっくりしたのですが、北は青森県から西は福岡県まで、なんと20都府県で約50の地域の皆さんがお集まり下さり、会場は満員、外も暑いですが、会場内でも熱い議論が出来ました。

今までの3回は制度や政策を中心に、新しい公共交通の維持発展の方策についての考え方を地域での取り組み方も含めてお話ししてきました。

今回のシンポジウムで制度の次にテーマとしたのは、「技術力・工夫力・実行力- 技術の先端と全国の好事例に学ぶ -」でした。

内容として、

基調講演は、
国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所の大和裕幸理事長による『地域公共交通を支える工夫〜オンデマンド交通を例として〜』(配布資料ダウンロード)

話題提供は、
国土交通省総合政策局公共交通政策部交通計画課長の金子正志さんによる『地域公共交通活性化・再生の現状と各地における取組』(配布資料ダウンロード)でした。

事例研究としては、
NPO法人ふくい路面電車とまちづくりの会(ROBA)事務局長の清水省吾さんの『えちぜん鉄道発足と「福井」〜住民の行動とその後の展開〜』(配布資料ダウンロード)

NPO法人いわて地域づくり支援センター常務理事の若菜千穂さんによる『みんなでつくる公共交通と地域づくり〜岩手の現場から〜』(配布資料ダウンロード)

でした。

最後の締め括りの特別講演として、政策研究大学院大学の家田仁教授に『震災と地域交通の復興〜特に三陸地方のBRTを事例として』(配布資料ダウンロード)と題してお話しいただき、鎌田実教授にまとめを兼ねて閉会挨拶を頂戴し、本当に充実したシンポジウムになり感謝しています。

私の地域公共交通再生の歴史は、「公設民営」という新しい手法を実証し、法律や制度や政策を如何に次世代に向けて正しい方向に向けていくかという努力でした。

即ち、2000年、2002年の公共交通の等の規制緩和で地域交通の存立に危機感を感じ、色々ヨーロッパの仕組みについて調査、研究を進め、補助金制度に加え「公設民営」という制

度を導入しなければ、今後の維持が難しいという結論になりました。

しかし、私が再生に取り組みはじめた2000年初頭は、「規制緩和」「既得権益打破」「費用対効果」「競争による効率化」という言葉が飛び交い、何でも競争、何でも効率の悪いものはダメという風潮で、公設民営も地域公共交通の惨状にも目が向けられませんでした。東京等の大都市での競争原理が勝り、マイカーに依存している地方でもマイノリティーな考え方と思われていました。そして、規制緩和後に、全国の地域公共交通を代表するような会社が30数社倒れても依然大きな関心は払われませんでした。

その後の私の新しい法制化への道筋は下記の如くです。

  1. 三重県津市からの中部国際空港への海上アクセスの現状打開の相談から「津エアポートライン」(2005年2月~)として完全な公設民営で航路を開発し成功。公設民営が有効であるという実証実験ができた
  2. 南海電鉄貴志川線の廃止から、一部公設民営での再建を和歌山電鐵貴志川線(2006年4 月1日~)で果たしたことで、鉄道はいち早く「公有民営」が有効と認知された
  3. 広島県東部一帯を運行していた中国バスの再建(2006年12月~)を通じて、地元選出の国会議員の宮澤洋一さんへ地域公共交通の窮状が中国バスだけの問題でなく、日本全体の地域問題であることをお話し、それを契機に「地域公共交通活性化及び再生に関する法律」ができた
  4. 政権が自民党から民主党に変わり、同党の政策方針が全く地域公共交通に触れていない現状を地元国会議員とバトル論争して提議し、当時の三日月政務官(後に副大臣)と当時与党の民主党、野党であった自民党、公明党の3党で一緒に「交通基本法」を作り上げようとしていた

しかし、また途中で政権が変わり、「交通基本法」が野党時代の法制化事案として棚上げになっていましたが、2012年10月に岡山県の井笠鉄道が経営破綻を発表後、半月で全路線営業廃止という事件が起き、これを「公設民託」という方法で両備グループが救済したことが契機になり、2013年11月に衆議院国土交通委員会で「交通基本法」が「交通政策基本法」として審議入りし、私や家田先生等が参考人陳述をし、同年12月に同法が成立しました 。

この法律での肝は、

  1. 交通業者の孤軍奮闘型から、国、自治体、市民と交通業者が一体になり維持発展させるように改革
  2. 地域交通は単なる移動手段だけでなく、地域活性化のツールとしての役割を果たすように改革
  3. 「財源の確保」を明記

この基本法から、「地域公共交通活性化・再生法」が改正されて、「地域公共交通網形成計画」と「地域公共交通再編実施計画」が生まれてきたわけです。

我々は、このような法律の変化や制度変更に対応して、地域公共交通を専門的に研究し、その再生や維持の具体的方策を示す研究所やコンサルがいないことから、地域公共交通に造詣が深く、理論とともに実務で問題解決を図ってきた産学のメンバーを中心に当研究所を設立しました。

ただ、まだ制度や政策や財源も地域公共交通や公設民営の認識も十分ではありません。公設民営と上下分離方式の違いや公設民営と補助金制度の違い等が混同されているケースが多いと言えます。

上下分離は運行と設備を分けることを言いますが、公設民営は設備責任と経営責任を明確にして、民間の経営努力が活きる仕組みのことを言います。即ち、上下分離した運行の経営を民間の責任に任せる方法です。上下分離の場合は、三セクの方法がとられるケースが多いのですが、それでは思惑の異なる行政と民間が総すくみになって、非能率で責任所在が曖昧になることを公設民営では防ぐことが目的です。民間経営では安全と利用者へのサービスを進めて、経営を黒字化したいというマインドを醸成しますが、三セクではそれぞれの思惑で責任体制が曖昧になりやすい傾向があります。

また、公設民営も補助金も、どちらにしても公的資金や補助金を必要とするので同じではないかと思われがちですが、運行の補助金はあくまで赤字補填であり、経営の効率を上げても補助金が減るだけで黒字化しないことから、経営努力が効きにくいという欠点があります。

詳しくは拙著の『地方交通を救え!』(交通新聞社新書)をご一読ください。民間の経営を効率化するには、補助金による赤字補填でなく、責任の明確化と自主自立による黒字経営への仕組みが民営なのです。

今までに四日市市の「内部八王子線」、岐阜県と三重県にまたがる「養老鉄道」、江田島市の海上アクセスの公設民営化や網形成計画づくり、備前市の海上アクセスやバス路線の再生、平成筑豊鉄道や古賀市をはじめとするバス路線の今後のあり方への対策や意見等々、全国各地での講演や助言を行なっています。

どの地域でも、まだ制度や政策、財源が十分ではありませんが、これからは地方自治体が規制緩和後の財政負担だけでなく、政策的にも制度的にも大きな関わりをもつように変わってきました。

今回のシンポジウムでは、そこから、地域公共交通の実務に踏み込んで、維持発展させる「技術力」「工夫力」「実行力」をメインテーマに、問題解決がどのように各地で図られているかを具体的に発表してもらいました。

各発表から明確になったのは、地域、地域と言っても政令市や中核市クラスから、過疎の進む地方都市や過疎化した地域等、実に様々あり、地域によって問題の深刻さや対応策が全く違ってくるという点です。少子高齢化と言いますが、それを通り越し「無子高齢化」した地域という言葉が胸に刺さりました。

地域公共交通の様々な問題は、共通した財源問題以外は千差万別の解決方法があり、一概にこの方法とは言えませんが、今回の発表で多くの示唆があると思いますので、当総研のホームページの各発表者の資料をぜひご覧ください。

当総研への具体的な問題解決のご依頼は、ポンと入札のご依頼だけでは受けていないのでご注意ください。

進め方は、

  1. 問題のご相談と基礎的な資料での問診
  2. 現地視察
  3. 問題解決の方針の提示とご承諾で、問題解決をお引き受け(特命でも入札でも可)
  4. 調査と分析は、行政ご当局や市民の意見聴取を一体にし、提案することによって、大幅なコスト削減とコンセンサスの共有化を図る
  5. 基礎的な資料や調査がない場合は、一般のコンサルタントと協働もあり

という手法をとり、財源や人材の乏しい地域に負担が少なく、具体的に解決できる方法と進め方をとっていきます。

また、提案の実施方法や市民や議会へのコンセンサスづくりの説明、実施後の問題を一緒になって進めていくところが一般のコンサルタントと当総研との違いです。

行政からは地域公共交通総合研究所へ「人口が減り、利用者も減るが、補助金は毎年増えてどうすれば良いのか?」という疑問が多く寄せられ、これらの具体的な問題については当総研に何なりとご相談ください。

地域の公共交通の維持発展と地域活性化に少しでもお役立ていただければ幸いです。

第4回シンポジウム

2016.08.28
地域公共交通総合研究所

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